新型Z 北海道試乗会

2022.09.29

●北海道の日産のテストコース
北海道足寄郡陸別町にある日産自動車のテストコースはクローズドだがサーキットとは違って、普通の道路環境に近い。ヨーロッパによくあるミューが低い一般道路や高速道路が再現されている。サーキットよりもずっと滑りやすい。ここで7月17日に新型フェアレディZに試乗した。

●昔のZの現代版!?
新型Zは、前モデルのシャーシを踏襲するが、デザインが一新され別のクルマの印象を受ける。コンセプトを一言でいえば、昔のZの現代版。1969年のS30は北米で「Z-CAR」と呼ばれ52万台以上が生産され、続く1978年登場のS130も大ヒット、累計で大台の100万台に到達した。その年代に子供時代を過ごした層は「Z-CAR」に憧れを抱いている。新型Zの戦略は、新しい層や若者にユーザーターゲットを拡げず、ピンポイントに絞る。シルエットがS30から継承されたレトロチックな印象を受けるデザインは、その層に大きなアピールポイントとなるはずだ。説明を聞いていると「そりゃあ、とくに最初は売れるだろうナ」と思えてくる。実際、発表とともに受注が殺到し、現在も納車待ち状態となっている。同業者のモータージャーナリストにも、まだ試乗さえしていないのに発注した者もいるのだから。

●絶賛の声
さて試乗してみてどんなクルマなんだろう。
晴れた日に試乗した別のグループのモータージャーナリストたちからは、絶賛の声も聞こえてきていた。しかし僕の試乗当日は生憎の天候で大雨。印象は少し異なるものだった。
そのギャップは、事前に得た情報から僕の中に出来上がっていた「昔のZの現代版」というイメージと、実際のZの挙動にギャップが生じたからかもしれない。決してよくなかったというわけではない。

もう少しZの歴史を振り返ってみよう。S30で親しみやすいスポーツカーとして登場したフェアレディZは、その後、1983年のZ31でハイパフォーマンスな高級GTカーとして発展していった。そして2002年Z33から完全2シーターとなりスポーツカー路線に回帰した。

今回の新型では、さらに「スポーツカー」であることが意識されたという。日産のスポーツカーのフラッグシップ、NISSAN GT-Rとの比較でいえば、GT-Rは電子制御で武装した強力な「モビールスーツ」。一方、Zは「ダンスパートナー」なのだそうだ。GT-Rよりも気軽にというスタンス。具体的にはGT-Rは電子デバイスを多用し四輪駆動方式で状況によって駆動配分を変更して速く走らせている。一方、新型ZはコンサバティブなFR方式で当然、駆動配分変化はしない。主役はあくまでもドライバー。ミッションは2ペダルのみとなるGT-Rとは異なり、6MTも用意される。コスト面も意識され、前モデルとの共通部品も少なくないそうだ。

とは言え、エンジンやトランスミッションには新機構や工夫がなされ、実際に試乗してみて機能の良さが感じられた。

 

●「ダンスパートナー」は雨の日は打って変わって激しく踊る
まず先に試乗したのは6速マニュアル仕様だ。装着タイヤには2種類あって、前後245/45R18 96Wのものと、フロントが255/40R19 96W、リアが275/35R19 96Wという構成となる。僕が先に乗ったのは、6速マニュアル仕様の19インチ版だった。

幅広で接地面積が広い19インチタイヤはドライコンディションであれば強くグリップして路面をとらえてくれるのだろうが、大雨の中、一般道を模した荒れた路面では、接地圧の下がる幅広タイヤでは、水たまりの上で簡単にハイドロプレーニングを起こしてしまう。コーナーでも唐突に滑り始めるので、運転手はおっかなびっくりで、アクセルをなかなか床まで踏めない。

さらにこのエンジンは、下からトルクを強く出している。たしかに低中速域のトルクがあるとサーキット走行などでコーナーの立ち上がり加速が良くなり好タイムをマークできる。しかし雨天時はそれがあだとなり、ちょっと踏んだだけでスロットルが大きく開いてしまい、コーナリング中にズルッとくる。タイヤがたわまないので路面に力がかかる前に滑ってしまうのだ。サーキット走行であればメリットとなるはずの幅広タイヤ+固めのサスペンション+低速域強トルクのキャラクターが、雨の一般道では反対方向に振れてしまう印象だった。

 

その後、マニュアルモード付フルレンジ電子制御9速オートマチック仕様に乗ってみた。こちらには前後245/45R18 96Wという若干狭い18インチサイズのタイヤが装着されていた。こちらの方が好印象だった。タイヤの面圧が高くなってエンジンのパワーを一回受けとめてくれて、それでグリップしてくれる。ヒールアンドトウもしなくてよいので、気持ち的にも気楽だった。テールスライドも少なくなって、タイヤ違いでこんなにも違うものか!と改めて思った次第。

付け加えると、AT機構もよく仕上がっていて、ダイレクト感がありかつスムーズ。ヒールアンドトゥが後遺症で苦手な自分としては、購入するならこちらの仕様だなと思った。

もちろんMTにこだわりたい人は6速マニュアル仕様を選べばいいが、AT仕様の方がシフトチェンジが速いらしく、サーキットでのタイムも上回るらしい。

●日産のトップガンを横に乗せて
試乗時に日産のテストドライバーのトップガンが、「太田さんの横に乗せて!」と乗り込んできた。あんまりのんびり走って「太田も歳をくったな」と思われるのもナンなので、それなりに頑張って走らせた。大きくスライドした場面では、さすがのトップガンもヒヤヒヤしたはずだし、僕も冷や汗をかいた。

前述したようにドライコンディションで試乗したグループからは良い評価が聞こえてきていた。しかし僕は大雨だったこともあって、ちょっと違う感想を抱いた。

もしサーキットを走ることをメインに考えるなら、この仕様でドンピシャだろう。でも親しみやすいパートナーとして買うとしたら、雨の日に見せるナーバスで激しいキャラが気になる。ユーザーが街中、山坂道、そして大雨に出くわすことを考えると、速さ追求よりももっとオールラウンダー志向で良かったのではと思ったのだ。

●雨の日は慎重に乗ろう
新しいZの味付けにはレーシングチームのニスモに所属するレーシングドライバーも参加したらしい。最適なシフトチェンジのタイミングをデジタルで表示するメータなどは、まさしく最新のGTカーと同じコンセプトなのだそうだ。

でも僕は街中ではレブリミットまで引っぱることはないから必要なくて、むしろ日常使いの領域を、どうせならレロトチックなデザインで見せてくれた方がコンセプトに合うのではと思った。

 

●スポーツカーとレーシングカーは似て非なるもの
僕の持論は、スポーツカーとレーシングカーは似て非なるものだという考えだ。例えばエンジンの吹けあがるフィーリングも、あえて低回転は抑え気味にして昔のクルマのように高回転まで気持ちよく伸びあがっていく演出があってもよかった。新型は出だしからトルクがワッと出て、たしかにサーキットでは速いはずなのだがあるいは、足をもっと柔らかくして、オールマイティに路面や天候の変化に追従できるしなやかさがあった方が僕の好みではある。

このギャップはレーシングドライバーの意見と僕の好みの違いなのかもしれない。もちろん好みには個人差がありスペックに憧れる人がいるのも分かる。ただこれがニスモZとか、そういう名前だったらベストなんだろうけど、あくまでもNISSAN Zという名前だからこそ、この大雨の試乗会で僕はそんな風に考えた。


フェアレディZ

●全長×全幅×全高:4380mm×1845mm×1315mm
●ホイールベース:2550mm
●トレッド[前/後]:1555~1565mm/1565~1595mm
●車両重量:1570~1620kg
●エンジン形式:DOHC・筒内直接燃料噴射V型6気筒
●エンジン排気量:2997cc
●最高出力:298kW(405ps)/6400rpm
●最大トルク:475N・m(48.4kgf・m)/1600~5600rpm
●燃料供給装置:ニッサンDi
●使用燃料:無鉛プレミアムガソリン
●燃料タンク容量:62L
●変速機:6速マニュアル/マニュアルモード付フルレンジ電子制御9速オートマチック
●駆動方式:RWD
●プライス:5,241,500円~6,462,500円