人間力を高めて事故を防ぐというアプローチ。 安全運転をテーマにした自動車メーカー社員向け研修とは。(所員:高桑秀典)

2018.11.30

 自動車事故はもちろん誰もが起こしてはいけないものです。さらに加害者となった場合には
社会に与える影響が非常に大きくなってしまいます。ましてや最近はSNSの発達により、本人はもちろん会社の信用まで落とすことになりかねません。特に、自動車に関係する仕事に就いている人は事故を起こすことなく、その交通マナーは人々の見本とならないといけないですよね。そのため、自動車事故を起こさないため、自動車メーカーでは、社員にどのような教育をしているのでしょうか。

 自動車メーカーVOLVOの社員教育を当ラボの所長であり元レーシングドライバー/自動車評論家の太田哲也氏が校長として基調講演をする機会があったので、取材に行ってきました。
 
 この研修を主催していた株式会社スポーツドライビングジャパンでは、事故ゼロを目指すinjured ZEROプロジェクトを立ち上げ、『V Vメソッド』と呼ばれる国土交通省事故防止支援対策推進事業にも認定実績がある教育カリキュラムを提供しています。V(Vision)&V(Voice)とは、安全運転に対するあるべき姿を文言にしたもの=Visionを、講義やレッスン時に講師が提示(input)し、そのVisionに基づき、日々の業務における、たとえばヒヤリ・ハット防止等のために得た気づきを記述した文章=Voiceを講義やレッスン後、または継続的に受講者が作成(output)していきます。そうすることにより、社員ひとりひとりの意識改革を進めていきます。

 中でも特徴的なのは、そのVisionが太田哲也校長の「実体験」に基づいたものというところです。

「私は現役時代は自動車メーカーのワークスドライバーでしたが、当時のドライバー教育において、『公道で事故を起こしたら職を失う』と言われてきました」と太田校長。 

 では、その経験を踏まえて、どのように教えているのでしょうか?

 意識改革は事故を減らすためには重要なキーワードとなります。交通事故の9割はヒューマン・エラーが原因だと言われており、自動車の安全技術がいくら進歩しても、ドライバーの安全に対する意識を上げないと事故は減らないわけです。自動車の技術向上よりも先に、運転者ひとりひとりの意識改革が必要だといえ、つまり人間力を高めることが重要になってきます。このカリキュラムでは太田校長が極限状態で経験してきたレーシングドライバーとしての知識や技能、大事故からの社会復帰という稀有な経験などを踏まえ、プロフェッショナルとは何か、社会や会社に貢献するために社員が実行しなければならないことは何か、といったところまで踏み込んでまずは人間力向上、そして意識改革を高めることをめざしています。

 実際に研修内容を取材してみると、安全運転講義、実技(まさかのアクシデントを想定した荷重移動によるスラローム、急ブレーキ、緊急回避)、そして、V&V研修という3つのカリキュラムを一日で行いました。
 当日は、XCやV60といった教習車に乗って実技に臨んだ参加者たちは、クローズドコースだからこそ試すことができる操作を実際に行い、クルマの安全性に対するVOLVOの総合的アプローチである『インテリセーフ』の実力(安全性の高さ)を身をもって再確認していました。

 また、講義では太田校長は、現役時代は自動車メーカーのワークスドライバーだった経験を交えて講義を展開、ドライバー教育において「公道で事故を起こしたら情報が拡散され職を失う」という厳しい教えがあったこと、その上で「プロ意識=責任感」を貫いてきたこと、コンプライアンス重視が強く求められる現代の企業にとって「人間力」や「安全意識」を社員に浸透させることは必須だと訴え、社員たちは真剣に話に耳を傾けていました。

 太田校長はこのV&V安全運転推進研修の締め括りとして「今日体験したことを家に帰ってから思い出し、クルマがどのように動いたのかをもう一度考え、実際の運転時に役立てることが大事」と述べました。

 研修を社員とともに受けたボルボ・カー・ジャパン株式会社の代表取締役社長である木村隆之氏は「今日学んだことを身体にしみ込ませ、スタッフのひとりひとりがMr.VOLVO、Ms.VOLVOとしての自覚を持って行動していってほしい。今回のような体験をし、自社製品の安全性の高さを理解しておくと、いざというときに違うだろう」と社員たちに語り掛けていました。

取材・文/高桑秀典(ラボ所員)

【関連ウェブサイト】
http://www.sdjsoken.jp