ホンダ・シビック考

2022.12.12

フォルクスワーゲン・ゴルフと比較されることがよくあるが、ゴルフは初代と最新モデルで通じるところがある。初代シビックも、フレンチブルとかボストンテリアとかパグのように愛着が湧く存在で、カッコよくないカッコよさみたいなものが感じられた。

しかしながらゴルフと違って、最新のシビックは初代とは別モノだ。新型自体はたしかにカッコイイが、同じ路線のクルマは世の中に多いので、個性は強くない。脈々と受け継がれたものが感じられないのだ。

名前はシビックだが、クルマは別物であり、シビックという名前が引っかかる。
でも、新しいシビックが出たのはいいことだ。

●歴代シビックはどれも力が入った力作だった
初代シビックはレースに出ていたが、スタイルがずんぐりむっくりで、カッコイイとは言えなかった。そして、当時のレースの世界はFR車が主役だったが、シビックは唯一のFFとして個性を放っていた。

そういえば、ぼくがアドバン・カローラFXでレースに出ていたときのライバルが3代目シビックのSiグレードで、当時世界的に人気のあったグループAレースで、無限シビックとチャンピオン争いをしていた。今回の試乗で、「あー、そうだったな、カローラの方が足が固かった」ことを思い出した。というのは、3代目シビックの足はウィッシュボーンだったのにカローラFXはストラットでそんなことも関係していたのかなと思ったのだ。

シビックは、この小さなクルマにもウィッシュボーンのサスペンションを奢っていて、コスト重視ではなかったということだ。小さいながらも、時代の最先端のアイデアも盛り込まれ、意欲的で、そのクラスの日本車をリードしていたことは間違いないだろう。

●新型シビックで感心したこと
さて、9月に発売となった新型シビック。メディア試乗会でガソリン車、ハイブリッド車、そして、タイプRに乗ってみた。特に印象的だったのは、普及モデルのガソリン車に乗ったらトランスミッションがMTだったことだ。日本では、MTはスポーツモデルに装備されることが多いが、スタンダードなモデルでは装備されるのは珍しい。

でも、このMTの出来がよかった。シフトがユルユルではなくコクコクしていて、フィーリングがよかったのだ。タイプRと似たフィーリングと言っていい。とにかく、コクコクが気持ちいいのだ。当初、スタンダード仕様でなんでまたMTなの?と違和感があったが、これはこれでアリだなと思った。

●タイプRのこだわり点
タイプRとの違いは、タイプRはスポーツ走行の際に必須となるヒール&トーを補助してくれる自動ブリッピング機能が付いていること。さらに通常はスポーツ走行で使うことがない2速→1速へのシフトダウン時も部リッピングしてエンジン回転数に合わせてくれるようになった。

これは一時停止などで停車するときに、よいシステムだと思った。フィーリングが気持ちいい点もポイントだ。

タイプRではエンジンマウントを10%強化している。一般的にコーナリング中はエンジンが傾くのでシフトチェンジしづらくなるが、取り付け部の傾きを工夫して、スムーズにシフトチェンジできるようにしている。

VTECの切り変わりのフィーリングも好印象だった。昔は切り変わる手前ではパワーがなくて非力な感じがしたが、今回のタイプRを乗ってみると、今や昔の話。2600rpmで最大トルクが出て、ターボで最高出力をアップさせ、タービンを小さくすることでエンジンのレスポンスを向上させているのだ。

インマニ(インテークマニホールド)の容量を10%上げることで吸気量を増やし、街中を低回転で走るときのトルクも増やしている。昔のタイプRはサーキットを高回転で走ることが得意で、低速が苦手、足がガチガチで、街中で乗りづらかったが、新型は街中を走っても快適な車に仕上がっていた。

サーキットをターゲットにしたトンがったクルマではなくなったが、それも時代の流れということだろう。スタイルもガンダムチックではなくなって、落ち着いた感じになったので僕らの世代でも似合いそう。