太田所長が日産リーフのレースに参戦したことで分かった可能性と現状の課題(所員:高桑秀典)

2019.09.10

 

皆さんは、日産リーフだけのワンメイク・スプリントレース・シリーズが実施されていることをご存知でしょうか?

EV(電気自動車)時代の本格到来に向け、社内にEV事業部を発足させたTEZZOでは、近い将来により一般化するであろうEVモータースポーツを見据えたデベロップメントを目的として、日産リーフ・ワンメイク・スプリントレース・シリーズにチャレンジしています。レースに参戦するとそのクルマの素性や課題がよく分かるため、サーキットで実践的なノウハウを集めることで、それらのデータが将来TEZZOがEVスポーツカーを造る際に役立つと考えているわけです。

日産リーフ・ワンメイク・スプリントレース・シリーズとは、JEV(一般社団法人 日本電動自動車振興会)が主催している新旧リーフが混走する『日産リーフ・チャンピオンレース(LCR)』と呼ばれるEVプロダクションカーレースのことです。市販ラジアルタイヤを履いたノーマルクラスのNクラスとSタイヤを履いてもOKなチューニングクラスのSクラス(旧型リーフが多い)というクラス分けになっており、JAFの国内格式レースに準拠して運営されています。JEVでは、レンタカーも用意しているので、問い合わせてみてはいかがでしょうか。また、EV体験走行会もあるので、こちらも試してみることで、EVが実は趣味性が高く、楽しいクルマであることを実感できるでしょう。

さて、日産リーフ・ワンメイク・スプリントレース・シリーズは、ただ単に速さだけを追求するのではなく、さまざまな要素を複合的に考えながら走らないと勝つことができません。頭を使うレースなんです。バッテリーの温度を上げないようにするため、アクセルを極力全開にしないようにしながらいかに走るかが重要となります。燃費をよくするために早めにアクセルを抜くガソリン車とは異なり、リーフはアクセルを戻すと回生ブレーキがかかり、バッテリーの温度が上がってしまうため、パーシャル状態を上手く使いながら走る必要があります。そういったことから「EVレースは頭を使うレースである」と評したくなるわけです。ちなみに、現行リーフはバッテリーをフロアに積んでいるため低重心で、FFですがバランスがよく、アンダーステアが出にくくて面白いクルマだといえます。

「EVプロダクションカーのレースは、電欠よりもバッテリーの温度が上がることのほうが問題になります。バッテリーの温度が55~56℃ぐらいになるとセーフモードに入ってしまい、著しくパワーダウンします。バッテリーの温度が上がりにくい旧型リーフが終盤に怒涛の勢いで追い上げてくることもあります。そこで2019年5月の今季第2戦ではウォッシャー液のポンプを活用して造ったバッテリーケースの冷却装置を活用しました。フォーミュラEはドライアイスを冷媒として使っていますが、我々は氷でバッテリーケースを冷やしました。予選が終わったときにバッテリーの温度が38℃ぐらいまで上がりましたが、決勝レースの前に冷却装置を使って25℃まで下げることができました。今季第3戦は9月1日のレースだったので、よりバッテリーに厳しさが予想されました。そこで予選を1周のアタックだけにとどめました。計測に入る直前の最終コーナーもゆっくり走り、極力バッテリーの温度を上げないようにしたわけですが、当然タイヤも冷たいままでグリップしなかったので、筑波サーキットのダンロップ・コーナーのところで横滑り防止の電子制御が効いてしまい、タイムロスになってしまいました。そして、決勝では、高性能/大容量バッテリーを積んだハイパフォーマンスモデルのリーフe+(イープラス)で参戦するエントラントの優位さが際立ちました。リーフe+は、パッテリーの容量アップとパワーアップの恩恵で、バッテリー温度を低く保ったまま走行できるのです。結局、高性能/大容量バッテリーを積むのが正解なのかと思いました。今後、EVがどういう方向に進むのか興味津々です。EVプロダクションカーレースに参戦することで、EV全体の流れを占うことができるので、今後も参戦するつもりです」とは太田所長のコメントです。

以前、太田所長はリーフ NISMO RCと呼ばれるEVレーシングカーの試乗会に参加してきました。リーフe+のバッテリーシステムを流用し、シャシーがドライカーボンで製作されている4輪駆動のリーフ NISMO RCは、リーフの電動化技術とNISMOが長きにわたって培ってきたレース技術を融合させたプロトタイプカーです。市販車でもレースカーでもないので、日産の技術をアピールするためのデモラン車ということになります。市販車のモーターとバッテリーを流用して、どのぐらいスポーティなクルマを造れるか、ということをNISMOが試し、EVモータースポーツのポジとネガを見極めるためのクルマでもある、と言えるので、そういった意味においては「実験車」ということになるでしょう。

このときの試乗時に太田校長は今後の参考とするために「バッテリーの温度が上がり、55~56℃ぐらいになるとセーフモードに入ってしまい、著しくパワーダウンする」というEVプロダクションカーのネガの部分をリーフ NISMO RCがどのように克服しているのか、あるいは克服していないのか、という部分についてチェックしてきました。

既述したように、TEZZOでは日産リーフ・チャンピオンレース参戦マシンのバッテリー(金属ケースで囲われているのでバッテリーセルを直接冷却することができない)をウォッシャー液のポンプを活用して造ったバッテリーケース冷却装置にて冷やしていますが、リーフ NISMO RCはバッテリーケースの穴からダクトをさし込み、バッテリーセルを直接冷却できるようにしていました。しかし、それでも袖ヶ浦フォレストレースウェイを十数周走るとバッテリーが温度上昇するらしいので、やはり、周回を重ねるレースに出るのは難しいことが分かりました。

つまり、プロトタイプのEVレーシングカーを製作し、EVも痛快な走りを楽しめる可能性を声高にアピールできる段階まで到達したものの、TEZZOがEVプロダクションカーのレースで悩んでいたバッテリーの冷却問題をリーフ NISMO RCも抱えていたということで、NISMOも、この答えの出ていない新領域にチャレンジしていくためにリーフ NISMO RCを造ったそうです。

EVモータースポーツは、まだまだ黎明期で、誰もがスタート地点にいるといえます。ガソリンエンジンの世界で、いまからプライベーターがF1マシンを造ることは夢物語ですが、EVの世界においては高性能なレースカーを造り出せる可能性があるわけです。すでに日産リーフ・チャンピオンレースにおいてバッテリーを冷却し、さまざまなノウハウを蓄積しているTEZZOもバッテリーを冷やすためのチューニングパーツのリリースを目指しています。NISMOにもEVモータースポーツの底辺拡大のための技術サポートを期待することにしましょう。